俺達のコラム

 このページは、ベイタウン在住の翻訳家でもあり、シャンソン歌手でもあるPretty Ladyさんが執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。


ときめき(その21) 「デジカメに見た日本人

先にお断り:大変なが〜くなりました。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

忍耐と尊敬と混乱とそして感動が織り成す、あるグローバル会議の通訳現場で見た光景。

その会議の3日目、日本人コンサルタントと称する人が外国人を対象に講義をするという(実はこの仕事の丁度数日前まで、私は米国から来たコンサルによる日本人営業マン向けの講演の通訳を複数こなしていたが、今度は日本人コンサルによる外国人向け講演である)。それも英語でだ。通訳の私はその日に突然セットされたその会社の専務の話を通訳して欲しいと言う事になった。講演の通訳は依頼されていない。で、日本人コンサルの英語に、私はある種の期待を持って待っていた(最近は英語の堪能な人が本当に増えたのである)。

彼が話し出した。・・・・・・・・・・・・・・・

私は眼のやり場がなくなった。とにかく失礼にならないよう、努めて平静さを保とうと机の上に置いたメモ用紙に眼を移したり横を向いたりして、この“エイゴ”で外国人に向けて講演をするという計画と言うか、本人の度胸と言うものに驚愕し、それを隠そうと慌てた。会議の司会者が、動く私の視線をキャッチしたいらしい。いっしょに目くばせをして欲しいようだが、その人の視線からも私は目線を遠ざけた。

耳を覆いたくなるようなエイゴである。座っている外国人はどうしているのだろう。彼らの正面で彼らと向かい合って座っている私には、彼らが良く見える。驚いたことに彼らは、どうにか英語で文節を作れるようになり、それを口に出して言う事にテレを隠し切れないはにかむ少年の表情を持った40代半ばのこの日本人コンサルの「話」が伝えようとする意味を一生懸命、聞き出そうとしている。こういう時に良くある、軽視とあざ笑いと顔の歪みもない。皆必死に理解しようしている。理解できたところでは、頷いて「OKよ!」と言わんばかりのサインも投げる。

エイゴだけでなく、講演と言う名前で行われているこの会の進め方も。。。(絶句)。机を動かしてグループを作ってください。(数時間後)机を元に戻してください、(その数時間後)再度グループ別に机を並べ替えてください。(その又数時間後)グループのメンバーを変えてください(これは何度あったか)。又、机を元に戻してください。あ、今度は机はいりません(皆動かしていた机を元に戻す。日本人コンサルのエイゴが伝わっていない)。椅子だけを並べてください・・・いやはや小学生なら喜ぶであろう椅子並べゲームである。

いま時、こういうのもあるのか・・・・・アメリカ人のあのコンサル達がこれを見たらびっくりするだろうなぁ・・・・ま、彼らとは頂いている金額が違うのだろうけれど。それにしても日本人は変わった、エイゴで講演をしようとするのだから。

一日が終わり、感想を聞いてみた。「It’s OK」。英語でOKは我慢できる範囲よと言うくらいの意味だ。

彼の講演がやっと終わり、グローバル会議も閉会した。私とイタリア人、ウェルズ(イギリス)人は一緒に新幹線に乗ってそれぞれの帰途に向かった。このイタリア人は、ラテン民族特有のユーモアと飲み食いが大好きそうなお腹を抱えた58歳のグラン・パーである。グローバル会議の質疑応答では冗談を飛ばしながら笑いをたくさん作って貢献していた。人の話を聴くよりも、自分でしゃべる事が好きな人だ。新幹線の中でも隣のウェルズ人にしきりに話している。「何の話をしているの」と私は彼の横に座らせてもらった。

「日本は美しい、大変良く整理されていて、ほらホームを見ても綺麗だ」。日本が綺麗だとはよく外国人の口から聞く。でも,日本の街が整理されているって?「日本は他の国には決してないものがある。安全、正直さ。私はかつて日本の大手自動車会社のイタリア現地法人に30年もいたんだよ。そのため日本には何回も来ている。今でも忘れない事があるんだよ。熊本に行ったんだが、当時日本に来た外国人は揃ってカメラを買って帰ったんだ。日本といえば、直に思い浮かぶのがカメラだからね。私もデジカメを買ったんだよ。そして熊本から東京の本社に移動する日、工場が用意してくれたタクシーで空港に向かったんだが、デジカメをそのタクシーに置き忘れてしまったんだよ。空港に着いたら、日本の同僚から、無事空港に着いたか、問題はなかったか確認の電話があったから、私は、何も問題はない、デジカメをタクシーの中に忘れてしまった事意外わね、しかし、又東京で買うからいいよ、と言ったんだよ。それでそのまま飛行機に乗って指定されたホテルまで行ったのさ。ホテルの自分の部屋に入って私が見たものはなんだったと思う。ベットの上に、私がタクシーの中に置き忘れてきたデジカメだよ。私は打ちのめされたよ。その時私は誓ったんだよ。一生日本人と仕事をして行こうとね。(突然、彼の周りに真剣一色の深く重い時間が流れた。むむむ・・・目頭が熱くなってきた)」

「日本人は正直者だ。イタリア人は嘘ばかりつくけどね。だからイタリア人に道を聞いたらいかんよ。皆一生懸命教えるよ、でたらめをね」。でもそれはFun楽しんでいるんでしょ。「そう、くくく。。。本気にして行ったよってね(笑)。(ウェルズ人に向かって)でも日本人が道を教えたら、本気にしていいよ」「日本のような安全な国は世界中捜してもないよ。タクシーの中から見ても小学校の子供たちが大人に付き添われないで歩いている。イタリアでもヨーロッパでも考えられないよ」「以前に日本人の社長と新幹線を待っていたんだよ。出発時間10分前にホームに着いたんだ。電車は30分に発車する事になっていた。イタリアなら1時間くらい前に既に電車が入っているんだが、まだ電車が来ていなかった。それで、これは遅れますねと社長に言ったんだよ。社長はただ笑っているんだ。25分になったけれど、まだ電車が来ない。これはやはり電車が遅れていますね、と又言ったら、社長がまだニヤニヤして、さぁ、どうかなと言うんだ。29分になった。もう完全に遅れだと思っていたら、30分丁度に電車が入ってくるじゃないか。そして30秒後に発車したんだ。これは私にとってはものすごい衝撃だった。言葉を失ったよ。」

あのグローバル会議で、あのエイゴで話す日本人コンサルの話を忍耐強く理解しようとしているあの外国人たちの不思議な顔の奥には、このような日本や日本人に対する尊敬があったのかも知れない。私は通訳と言う職業柄本当にいろいろな国の人に会う。そして仕事を介して親しく話すことが多い。幾人ものフランス人が言っていた。フランスで働きたくないんだ。僕は日本人の人への思いやり、人間関係の築き方が好きだ、とか。

日本もいろいろ変わっているけれど、沢山の「美」がまだまだある。義理人情、正直さ、綺麗さ、優雅さ・・・すばらしいじゃんねぇ。今日は、ワールド・ベースボール・クラシックで日本が優勝した。こんな事を言ったら「ちょっと極端よ」と言われるかも。でも言わせてもらっちゃおう。日本って、かなり熟成した国になったなぁ。

Pretty Lady (2006/3/2)



All Copyright by Pretty Lady
ご意見・ご感想をお待ちしております。
pretty_lady@kjps.net
俺達のコラム・TOPページ

管理人Mail

Oretachi.jp