俺達のコラム

 このページは、ベイタウン在住の翻訳家でもあり、シャンソン歌手でもあるPretty Ladyさんが執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。


ときめき(その22) 「天皇陛下の御依頼

本日は天皇皇后陛下「ご光臨」のレセプションで通訳の責務を承り、務めてまいります。その感想は又の会にお知らせしますね。

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こんな前宣伝を興味のありそうな方々に送りましたら、「ビックリしました」
「報告楽しみにしています」とのメールが複数届いていました。ニタリ!

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「ちょっと!」・・・天皇陛下が私の立っている方向に向けて声をかけられている。どなたにお話されているのだろう。突然のお声にご列席の方々、財団の方々、周りに立って給仕をする人々が私の方へ視線を移される。まさか、陛下が私に?しかし陛下の視線がきらきらと輝きを放ちながら、お座りになっている席から、斜め後方に立っている私に向けられている。「・・・・私ですか」私は陛下の側に少し近寄り胸に手を当ててお聞きした(そのような仕草になっていた)。
「今のところを通訳してあげて」

この日は日本版ノーベル賞である「国際賞」授賞式の祝宴会である。「天皇陛下か小泉首相に付いて下さい」と言われていたが、首相に代わり安倍内閣官庁長官が列席され、英語が大変ご堪能の様子の天皇陛下には通訳は要らない事になった。
私は三権の長である参議院議長の扇千景さんと受賞者の1人英国人科学者の夫人の会話を通訳する事になった。しかし、受賞者夫人の別な横には天皇陛下がお座りになっている。陛下から私の席までの距離は2メートルも無い。

扇さんと受賞者夫人のお話は健康食事療法の話から、今国会で取り上げる法案、衆議院と参議院での法案可決に向けた摩擦、英国議会で取り上げられている優先課題、ベートーベンとモーツアルトの曲等様々なお話が交わされた(議会や国会の話がどのくらいの深さまで行くのだろうと、通訳している私は少々不安に駆られたが運良く私の知っている範囲の事で終えて下さった)

ご歓談のひとときが終わり、扇さんが祝辞を述べる番になった。私は速やかに席を立ち壁際に行きお話が終わるまで待機している。祝辞の内容は事前に印刷され、扇さんはそれを読むだけの事らしい。しかし、かつては女優でもあり、聡明な方でもあるので書かれたものだけを読むのは何とも御辛いところがあるのだろう、突然ご列席の方々を爆笑させる事を話された。それは私がご歓談中に通訳をさせて頂いた内容をベースにされたもので、その話に会場がにわかに沸き立った。壁際に立っている私からは天皇陛下の御前に座られている美智子皇后陛下のお顔を伺う事ができた。皇后陛下も他の方々同様大変お笑いになっていらした(私はこのお笑いの祝辞の中に自分の勤めがあることに心から光栄に思い、胸が熱くなった)。

扇さんの祝辞が終わり、私は席に着こうと戻った。その時である。「ちょっと!」。。。。この会場の通訳は二人が担当していた。もう1人は壇上で司会者の司会と主賓の挨拶等、あらかじめ用意されてある英語を読むことになっている。私は扇さんの祝辞が壇上の通訳により英語で流されるものだとばかり思い、同業者の領域を侵してはいけないと、陛下に対し「後ほどあちらから通訳があります」とお伝えした。それでも陛下は再度「通訳してあげて」と私にご依頼される。私はもう一度同じ言葉を繰り返す事しかできなかった。その時皇后陛下が、それはそれは優しくなだめる様に「後から通訳があるんですよ」と天皇陛下を諭されている。輝いていた天皇陛下の眼差しが曇り始めた。

私はそのまま席に座った。扇さんは会場の笑いを頂いたことでご満悦である。周りの文部科学大臣の小坂氏や科学技術政策大臣の松田氏も扇さんを賞賛していらっしゃる。扇さんに続いて受賞者2名がお礼の言葉を述べ始めた。その時である。扇さんが横の英国人受賞者の夫人に、扇さんのスピーチが書かれたある印刷物をお渡しになった。私の眼の前を通って渡されるこの印刷物には主賓全員のあいさつ文が日英対象で全て書かれてあるのだ。そうか、こういう事なら、先ほどのあの笑いの部分は壇上から英訳されるわけ無い。私は直に扇さんの笑いの部分だけを受賞者夫人に訳して差し上げた。すると彼女は、御自分が話した事が笑いのネタになった事に赤面しながら、扇さんの笑いを引き出す技術に感心されていた。

天皇陛下の御席御発、つまり御退席である。お席を立たれた陛下が私の方を向かれ「ありがとう!」と笑みを浮かべながら会場を御発ちになった。私は言葉を選べないまま、陛下に心からの会釈をお返しした。

陛下の御発に続き三権の長、扇さんがお帰りになる。「どうもありがとう」としっかりとした声で、そして嬉しそうに私に声を掛けられて御発ちになった。
きっと取った笑いを夫の雁治郎さんへの手土産にするのだろう。

天皇陛下はきっと、この賞の受賞者である英国人科学者ご自身にも英訳して欲しいと思われたのだろう。しかしそれは位置の関係上、大声を上げなくてはならず、できかねた。それが私にも心残りであった。小さなハプニングであったが、ここには書き切れない事を沢山拝見した。御周囲にアンテナを高く立てられる天皇陛下の御様子に心から敬服し、ご尊敬申し上げた。そしてふと思った。天皇陛下は血液型がB型、皇后陛下はA型だと。

Pretty Lady (2006/4/22)



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