6月の終わり頃、ひょっこりと六角亭を訪れた。写真のようになんか入り口がごちゃごちゃしていて、センスは良くない。でも、私のような者はこういう店が好きなのである。中は、時代遅れの大衆食堂といった感じである。
で、この店は私が20代の前半に通っていた店だ。しかも、ほぼ毎日。もっとも、その当時はこの店、下北沢(東北沢)の焼き鳥屋で、名称も異なっていた。「樽っ娘」という名前だった。その後、この地に来て、そして店の名前が「お茶の娘菜々館」となり、暫く居酒屋を続けたが、現在「六角亭」となった。
名称が変わったといっても、経営者はずっと同じ。小川さん(67歳)がやっている。因みに奥さんとは20歳も離れている。まあ、この辺りの詳しい話は省く。それより、この「しばざ記」に、「樽っ娘」のことを書いていたことを今思い出した。 >>> ここ
そしてよくよく考えてみたら、小川さんに会ったのは実に10年ぶりくらいだ。その前にもちょっとブランクがある。やはり幕張からだとよほどのことが無ければ中板橋までは来ない。好きな街なんだけどね。そう、中板橋は、好きな街なんだ。駅前からずっと商店街が続いていて、特に居酒屋なんて、道路にテーブルと椅子なぞ出していて、ホコテンじゃないけど、夕方になるとそんな雰囲気。でも、気取った感じの原宿や渋谷なんかと180度違うんだなあ。ほんと、ゲタ履きで歩ける街という雰囲気。
おっとなにが言いたいか分からなくなってきた。そうだ、小川さんのことだったね。いつもそうなんだけど、この店に行くときは事前に連絡などしていない。ふら〜っと行くのが私のスタイル。で、今回もふら〜っと行った。店の前で写真を撮って、それから中に入る。10年前は、デジカメが無かったからこんなに気軽に写真なんか撮れないのである。
「いらっしゃ〜〜い!」とママ。10年ぶりだというのに、まったく普通だ。一瞬私のことを忘れたのではと思った。しかし、私とて、店に入る時にもママに会ったときにも全くフラットだった。かつてあれほど毎日行ってた店なのに。
店内は、座敷のような空間があり、コンクリートの床の上には不ぞろいの椅子とテーブルが所狭しと並んでいる。ちと雑然とした感じ。今どきの食堂だって、それはないだろう、っては雰囲気で、お洒落な人は絶対行かない造りだ。厨房は奥に隠れていて、お客さんから全然見えない。小川さんはその中で黙々と仕事しているようだ。
お客さんは3人の子ども連れのお母さん。ちょっと生活に疲れちゃったような三十路。それに、奥のテーブルに一人で漫画を読みながら定食を食べている、こちらもちょっと生活感が出すぎといった親父。瓶のビールがすっかり温くなっているような気がする。
入り口には大型テレビがあって、ガンガンでかい音が鳴っている。バレーボールの試合をやっていた。お客が仮に全員テレビに釘付けだったら後から入ってくる客を全員で見ることになる。ちょっと気恥ずかしい造りだ。わたし的には、このような店はどうってことないのだが、考えたほうがいいかな。
以前の店は炉辺焼き風の作りで、中央にどんと厨房があって、それを取り囲むようにカウンタ席があった。そちらのほうが好みだったのだけど、まあ、小川さんの選択で改築したんだからそれはそれでいいんだろう。
で、約10分くらい待ってたら小川さんが出てきた。やはり60歳を過ぎると、あの頃とは全然違う。じじいとまではゆかなくても、私らとは違うんだなと思わせる。そうか、私がよく通ってた頃って、まだ小川さんは四十代だったんだ。改めて感慨を深める。
「久しぶりじゃない!」小川さんの一言もあっさりしていた。
ちょうどこの日は娘さんがお孫さんを連れて遊びにきていた。小川さんは私が知らないうちに40代〜50代にかけて3人も子どもを設けているのだ。奥さんが若いからそうできたのだろうけど、それでも凄いことだ。因みに奥さんと私は同世代。
まあ、そんな他愛の無い話をくだくだやって時間を潰した。実は、店に寄る前に別のところで思い切り飲み食いしていたので、何も注文しなかったのだ。それでも、長らく店にいた。奥さんが「ビールでも飲む?」と言ってくれたが、断った。これ以上飲むと逆流するくらいに腹いっぱいだった。
深夜になった。前述の2組のお客さんの後は一向に入ってくる気配もなく、店の前の通りも時々タクシーがかっとんでゆく他には人気(ひとけ)が無かった。私は帰ることにした。次はいつ来るの?という質問に、分からないと答えた。でも、良かった。元気そうでなによりだ。かつての飲み仲間もすっかり足が遠のいているようだった。だいたい居酒屋から大衆食堂に変身したら、のん兵衛には面白くないか。
余談:
板橋で思い出した。板橋に住んでいる友人夫妻が離婚したという。結婚する前から双方とも私は知っているが、互いに最も嫌いなタイプだったんじゃないかと思ってた。しかし、少なくとも15年は夫婦でいたし、こどもも3人いたのだ。今更なんで別れたのか、ちと聞いてみたい気もするけど、もうちょい時間を置いてからにするか。
2005/7/14
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