俺達のコラム

 このページは、私と同じ屋根の下に暮らす(と、いっても同じマンションの住民という意味)、Pretty Ladyさんが執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。



ときめき(その25)
「アズナブールの魂」

シャルル・アズナブールは今年82歳と言う。2月10日東京フォーラムで開かれた彼のコンサートには、今回が日本公演最後と言うキャッチフレーズが付いていていたので、これは見なければと高いチケットを買った。しかし、心配だった。これまで高年齢の外国人の公演にだまされた感があったから、この高いチケットの価値がただの紙になるのかと。(あれは、青山のブルーノートに行った時だった。アメリカ人だけれど、パリに居を構えフランス語でジャズを唄うと言うし、シャンソンも歌うという黒人歌手。しかし一日で興行収入をできるだけあげようとしているためか、同日の夕方に2公演続けてやり、最初の公演でエネルギーを使い果たしたのか、私が行った夕方9時からの公演では、唄った歌はたった5曲(信じられる?)、後は楽団の演奏と話。本人は途中数十分の休みだけの連続公演で暑いのか、日本のセンスを取り出して顔を扇いでいる。完全に軽んじられていた。)

しかし、アズナブールの魂は高貴だった。

‥もう凄いの一言。アズナには音楽の神がついてる。素晴らしい。涙が溢れて止まらなかった。モニター・字幕・お喋り・休憩もなく、1時間半を艶っぽくお洒落で粋でパワフルに深く演じ歌いきったその次元の高い魂の表現に魅了されっぱなしだった。ブラボーの賛美の中を彼が静かに消えても熱い余韻が残っていまだざわめいている。こんな感動は長く久しく無かった。超一流の本当の本物の凄さをまざまざと体感させられた。彼は紛れもなくシャンソンの巨人でありその表現は極上のモノでありました。強烈なカタルシスを感じました・・(別に行った知人からのメールコメント)

彼がいないままのステージが無い。いつもの日本のミュージックコンサートのように、楽団の演奏が数分あって、スターの登場かと思ったら、音も出る前に現れる。そうかと思うと、唄いながら舞台の袖に行き、そこでブラックアウトとなったから、彼は舞台裏に行ってしまい「お休み」かと思ったら、再度あてられたライトの中に彼がいた。今度は、本当に舞台袖に引っ込んだ、今度こそ休憩かと思ったら、出て行った袖からすぐに姿を現した。「私は元気だ、気力十分だ!」と示唆しているのだろうか。

ステージセットはまったく無い。バックドロップの照明効果だけ。だけど棒立ちの、途中で飽きてくる歌ではない。歌の中のドラマを、動きで、演技で、着ているジャケットやハンカチなどの小道具を使って、またはコーラスの女の子とデュエットをしながら、字幕の無いまったくフランス語での歌でありながら、観客の集中力を削がせることが無い。

彼の歌。人生そのもの、人生をあるがままに歌にしている。彼の語り口、日常の一齣そのまま・・・・涙が出てくる、とめどなく。まったくうその無い人生を彼が歌うから。重くなく、粋に。そうか、これがシャンソンなんだ。つらくない人生などありえない、苦しい時の無い人生などありえない。神様は誰にでもその人なりのつらさや苦しさを与えている。そんな人生を逃げずにしっかりと受け止め、リアルに歌にしていく、それも、粋に。

何を唄っているのか具体的には分からないフランス語の歌。ほとんど満員に近かった会場の人達が総立ちになって彼を送った。

世の中にこれ程人の心をLift−UPさせてくれる人がいる、そしてそのような人達の歌と姿を目の前で見させてくれる、人間たちが創った仕組みがある。私はそんな大きな力に心から畏怖と敬意を抱いた。

Pretty Lady

(2007/02/11)





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