俺達のコラム

 このページは、私と同じ屋根の下に暮らす(と、いっても同じマンションの住民という意味)、Pretty Ladyさんが執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。



ときめき(その24) 「不治の病と言われたら・・・

「重い病気にかかった時に、玉川温泉がある事を思い出せば良いのよ」

この夏の初旬から中旬に掛けて、フェリーに車を積んで北海道に行き、そこから南下する長距離ドライブを敢行した。

数年前の北海道感動10日間ドライブで漏れた富良野と函館が、今回の北海道の目的地だったが、加えて青森の「ねぶた祭り」、そして仙台の七夕祭りが呼び物だった。北海道は、富良野から函館までの450キロの移動も含まれながら、2泊というややきつい日程が理由か、または余りに観光地化した旅先がそう思わせたのか、富良野のキャンプサイトを除いては、差ほど大きな感動も無いまま引き上げる事になった。

青森のねぶた祭りもイメージしていた「魂」やエネルギーはそれ程感じられず、地元のタクシーの運転手の話にかなり同意して締めくくった。「むかスは、ねぶダにももっと勢いがあっダんでけど、わたスも今は見にさ行かねんだ」(うんだども、運転スさん!ねぶダの時は稼ぎ時だべさ。行グ暇ねかっぺ。むかスは運転スやってねかっダべさ)。

青森から更に南下し仙台の七夕祭りに合流する旅程に、せっかくだから玉川温泉に立ち寄ろうと言う事になった。玉川温泉に関しては義姉や、ひと時身体に良く効く温泉めぐりをしていた指圧師から話を聴いていて、以前から興味を持っていた。

温泉は山奥にある。とは言っても、今では新幹線が秋田の田沢湖にも停まるので、そこからバスで1時間ほどらしい。かなりの人が湯治にこの玉川温泉で宿泊するため、今では「新玉川温泉」と言う新しい施設も建てられ、それ以外にも2食付きの宿泊施設が数箇所ある。

600円の入浴料を払って温泉に入った。源泉100%、50%と湯船が分かれている。せっかく来たのだもの、出来るだけ効果を頂いて行こうと、源泉100%の湯に浸かった。間もなく、私の隣で湯に浸かっている20代後半位の人が、「傷口が沁みません?」と聞いて来る。「いいえ、今、傷が無いので」・・・・・あれっ?確かに沁みている。沁みて思い出した傷が確かに沁みている。これは治るという徴なのだろうか。

そうかも知れないと勝手に思い込み、まだ浸かっていた。逆隣に50代くらいの女性がやって来た。聞くところ、卵巣ガンで手術をしたらしい。まだ此処に来て間が無いようで、彼女が聞いた玉川温泉体験者の話を聞かせてくれる。医師に余命3ヶ月と言われたがん患者が、玉川温泉に浸かる事で、もう6年も生き永らえているそうな。

今日一日だけという時間しか持たせられていない私は、この女性が教えてくれた喘息や皮膚疾患に効くという湯や蒸気風呂に間断なく浸かった。しかし、これはちょっと心臓に悪いぞと思い直し一休憩している時、話し相手を待っていたかのような60代の女性の、中断させるのが気の毒なほど勢いのある話を聞く事になった。

「私は玉川温泉には30年程前から来ているのよ。以前と違って今では皆さん挨拶もしないでしょ。食事付きの部屋に1人で泊まっているのだけれど温泉に入る以外は何もすること無くて、退屈でね。千葉の市川なの。皆さんね、この温泉がガンや皮膚病に良いというけれど、私はね、骨よ。椎間板ヘルニアだったの。ほら見てちょうだい!」くるっと半回転して見せた背骨の真ん中には、えぐられたように凹んだ箇所がある。「32歳頃のことよ。右向く事も左向く事も、痛くて痛くて。家で食事の準備をしようと台所に立っても10分くらいでもう痛くて立っていられないのよ。整形外科に行ってもちっとも良くならないの。そこで玉川温泉を勧められたのだけれど、私も若かったものだから、他人の話を素直に聴けなくてね。でも余りに苦しくて来たのよ。お医者さんだって、『温泉で治るわけが無い』とおっしゃってね。10日ほどいたの。そしたら痛みがすっかり無くなったのよ。まだ足には痺れが残っていたのだけれど、鍼灸を2度受けてすっかり治ったの。その後毎年やって来て2週間ほど浸かっていたけれど、此処のところ長い間お休みしていたら、以前交通事故で股関節を骨折したところが再び痛み出して、また来始めたの。玉川温泉は骨、骨よ。私にとっては」

ただただ、眼を丸くして聴いていた。"不老長寿"の湯などとアニメ映画で見たような気がするが。。。。しかし、自然界に潜む不可視的力を信じている私としては、そんなに良いなら、私の万年胃痛や花粉症、湿疹も治るのかと、それらに良いといわれる湯を選んで浸かり直し始めた。

温泉を出る時間を待ち合わせていた相棒の声が、男女風呂の壁を越えて響いてきた。「静や!」(来た!もう出ようという催促に違いない)「僕、まだいるよ!」(ええっつ!雀の行水くらいしかしない人が!?どうしたの?)

温泉から出た相棒が、幸せそうな顔をして言う。「"寝湯"にいるとすごく気持ち良いんだよ。治るような気がするんだよ」(あれ、君、病気を持っていたっけ?)"寝湯"か。確か、そう書いてある湯船があった。私は花粉症退治に忙しくてスキップしてしまった。「ねえ、岩盤浴というのがあるらしいから、そこに行って見ない」

北投石が散在する玉川温泉の回りは、新陳代謝を活発にさせ、がん治療に効くと言われるラジュームが多量に放射しているという。その放射量は世界一らしい。その石の上に寝てラジュームを浴びるのだが、浴びる場所は、治療だけが目的の非常に質素な、数本の柱に屋根だけが付いた横臥所である。皆、ござを敷いたりタオルを敷いて黙々と治癒に励んでいる。治癒される事を信じて疑っていない、まるで恍惚の態でうつぶせに臥している初老の男性がいた。タオルからはみ出た彼の足や背中には赤い斑点が、まるで開花後砕け散る花火の火花のように肉の上に広がっていた。お顔を拝見する限り、上品に生きて来られた方のようだが。一瞬、拒絶反応が起きた。しかし直に先ほど温泉で聞いた話を思い出した。

「此処は皆さん病気持ちの人が来るでしょう。だから皮膚にボツボツ出来ていたりして、それが移るような気がして、最初わね、お風呂に入れなかったの。でもね、岩手大学の先生が毎週末に来て講演をして下さって、このお風呂には人が入っても入らなくとも菌はゼロなんですって。」玉川温泉の酸は強く、菌は数秒にして死ぬのだそうな。

岩盤に寝てみたが実に熱い。サウナを始め熱いのはNGである相棒に急き立てられ、沸き立つ源泉の側を通って駐車場に向かった。途中、岩に囲まれた僅かな空間で日傘を差して蹲っている一組の家族に出逢った。こんなに暑い日に(その日はこの夏一番の暑さだった)、こんなに熱いところで、服を着込んで家族三代で座っている。中心となっている女性は30代後半のかなり美人作り。ラジューム放射量測定器を見せてくれる。「此処がラジュームの放射量が一番多いところなんですよ。ほら!」測定器に表示された数値の違い。なるほど!「北投石があるところは、台湾と日本だけなんです。6回ほど台湾まで行っていたんですけど、台湾は一人づつ温泉に入って、一人入るとその温泉は流して入れ替えるんです。話し相手もいなくてねぇ。」美人系のつやの良い肌をした彼女から想像した事は、美容のために台湾までわざわざ行くのだろう。なんと言うお金の使い方と執念か!

彼女が活発に話をする。美人系によくある"遠慮"や気力の欠如がない。聞いても良さそうだ。「なぜ台湾までわざわざ行かれるんですか」「がん治療です」どきっ!「32歳の時ガン手術をしたんです。それで北投石のある台湾まで行ったんです。14日ほどいました。帰ってきたら、がん細胞のレベルが健常者と同じレベルまで下がっていたんですよ!!。」今でも当時の驚きを回顧するかのように語気を強める。それから5年間、今日まで毎年此処に母親と子供をつれてやって来るらしい。

この僅かな岩間に陣取りラジュームを浴びながら、彼女は私たちにしてくれたように、通り行く人たちに気軽に話をかけるようだ。これまで彼女の敷物に上がった人たちの話もしてくれる。やはりすっかり良くなった別のがん患者の話、温泉や岩盤浴で沢山汗をかいた後に、十分に水分補給しなかったためか、ガン治癒のために来た人が、ガンの再発はなくなったけれど、脳卒中で亡くなった話。自分はガン手術をした後に来たけれど、手術前に玉川温泉の事を知っていれば、手術せずに済んだかもしれない事。源泉100%に最初から浸かると皮膚が溶けてしまう事(ぎょっ!私は一生懸命浸かってしまった)「こんな風になってしまうんですよ。こっちが台湾で溶けたもので(小さくて赤い)、こっちが玉川温泉で溶けた箇所(茶色でやや大きめの斑点)」などなど。

旅程に入っていなかった玉川温泉への立ち寄りで、仙台の七夕祭り最終日の最終時刻に間に合うのも怪しくなってきた。急ぐ車中、話は玉川温泉に終始。「来てよかったね」 「それにしても、湯治をしていた人達、30代の人も60代の人も、皆、肌のつやが良かったねぇ」「この話、xxさんにも、xxにもしてあげよう」

「玉川温泉、本当に良いよ。治る気がするよ」と繰り返し幸せそうな顔をして語る相棒が、毎年夏に近くのキャンプ場で宿泊しながら、玉川温泉に1週間くらい浸かろうかと話す。良さそうなキャンプ場を通りがけに見つけた。(北海道や東北に見かける森林に囲まれた広いキャンプサイトは、一般のホテルより優雅な気分にさせてくれる)

「重い病気にかかった時に、玉川温泉がある事を思い出せば良いのよ」。。。温泉で話してくれた60代の人の言葉がいつまでも残った。

Pretty Lady (2006/8/16)

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追伸:ときめき#22『天皇陛下の御依頼』には実に沢山の方々(2ケタ)からレスがあり、ビックリしました。陛下の存在を改めて認識しちゃいました。楽しく読ませていただきました。

Pretty Lady



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