「俺たち2」管理人による戯言
日記でもない、コラムでもない、単なる戯言。そんな感じ。
筆者は幕張ベイタウン在住のおやじ。結構、歳いってます。はい。
しばざ記
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夕暮れの河田町
1983年11月3日。牛込柳町の後輩宅(マンション)から

河田町といえば、「ああ、フジテレビね。」と分かる人は昭和人である。別に業界関係者じゃなくてもフジテレビ=河田町ということは半ば常識になっている。

上の写真は古い写真のデータ化をしている際に発見したもの。後輩のF君が牛込柳町に住んでいて、ときどきお邪魔したり、仕事が遅くなったりしたときに泊めてもらったりしたマンションから撮影したものだ。マンションといっても古臭くて、マンションというのをためらってしまいがちな建物。ただ、他に高い建物が無かったので、やたらに景色が良かった。新宿の高層ビル群が手が届くくらいに近くに見えた。その反面、吹きっさらし。最上階だったので、階段の踊り場は天井が無かった。

ご覧のように、柳町から河田町にかけては高い建造物がひとつも無い。唯一どかんと飛び出ているのがフジテレビ、という具合だ。

F君はロックバンドを組んでいた。忌野清志郎の大ファンで、バンドもRCサクセションのコピーだった。見たことは無かったが、担当はベースで、ライブの時は清志郎っぽい化粧をしていたという。私は彼の部屋でよくベースを弾かせてもらった。年長の私に気遣ってか、彼はあまり私の前でベースを弾いたことが無かった。その当時、ビートたけしの「コマネチっ!」というギャグが流行っていて、彼はよく真似していたのを覚えている。

彼のマンションに、私と同様によく訪ねていた人物がいる。K君だった。その頃、私がK君のことを、果たして「君」で呼んでいたのかどうかは忘れた。歳は同じだったけれど、K君が1年ほど先に会社にいたのだ。つまり、先輩。

K君は、F君と異なり、どちらかといえば演歌系。水商売っぽい顔立ちだった。ちょっとやんちゃな性格で、酒が大好物。少し酔うと、言葉や態度もでかくなるという感じ。すっかりF君のマンションを居心地よく使わせてもらっていた私は、K君の突然の訪問は苦手だった。どこかで酔っ払ってきて、後輩の何人かを引き連れ、いきなり「さぁー、飲みに行くぞ!」とF君だけか私も引っ張ってゆくのだ。

K君は一応は私と同年齢ということで、気遣ってはくれているのだが、酒を断ると機嫌が悪くなるのだ。冬のある日、夜の11時を回った頃、いきなりK君がやってきた。私は疲れていたせいもあって、出かけるのを拒んだ。付き合いの良いF君は、「僕がうまくつきあってきますから、そこで休んでいてください。」と言ってくれた。K君は、中に入らずに、外で待っていた。外は前述の通り、吹きっさらしのまあ、屋外みたいな場所である。

「じゃ、行ってきますね。」と言って、F君がドアを開ける。次の瞬間、叫び声が聞こえた。

咄嗟に外に出ると、なんと、K君が階段の踊り場の手すりを乗り越えて、そこからぶら下がっているのだ。ぶら下がっている足元は当然ぶらぶらしていて、彼の体は地上7階の高さで暗闇に浮かんでいるのである。当然、手が滑ったら、地上に叩きつけられるわけだ。叫び声の主はF君だった。その後は絶句している。私もぶらさがっているK君を見た瞬間、足がすくんでしまった。

K君はにやりと笑って、なんでもなかったように、腕を縮めたかと思うと、ひょいっと手すりを乗り越え、階段の踊り場で呆然としている我々の前に立った。そして、私に向かって、「なんだ。やっぱ行くんでしょ!」と言った。その後のやり取りはおぼろげな記憶だが、結局一緒に歌舞伎町辺りに飲みに行ったような気がする。

F君やK君とは仲違いしたわけでもないのに、自然に遠ざかってしまって、今日に至っている。かれこれ二十年は会っていない。達者にしているのだろうか。F君はバンドはやっているのだろうか。K君は無茶をしていないだろうか。


2007/10/12
しばざ記 317


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