浅草の観音様に近いキャバレーが舞台。主人公はボーイ。あるホステスと関係してからというものの、ツキに見放されたように、次々に災難がある。見かねた別のホステスが厄落としということで、彼と一緒に夜を過ごす、こんな物語である。もの凄い単純なストーリーであるし、無理に叙情的を装う仕掛けも無い。しかし、冒頭の3コマの浅草の風景、それと、最後の仁丹塔が出てくるだけで、何故か物凄くジーンときてしまうのである。最後の仁丹塔のコマのト書き、「昭和三十八年。ツユ入りも間近な夜でありました。」というフレーズにも余韻がある。なによりも、タイトルの「やさしい夜」。これだけでも泣けてくる。
この漫画に出合ったのはおそらく二十代前半である。週刊誌の中の読み切りだった。読んだ瞬間、かなりの感銘を受けている。仁丹塔は私の琴線である。そして、その仁丹塔の手前にはおそらくトロリーバスの電線が縦横無尽に張り巡らされていて、それがクルマのヘッドライトかなにかで光っている。その情景がずっと心に残った。その数年後、1983年の漫画雑誌「漫画ブリッコ」にこの「やさしい夜」は再登場した。それが上の写真。以来、約二十五年、バイブルのように私は手元に置いていた。
上の写真がその掲載された「漫画ブリッコ」の表紙と、裏表紙の「写真時代 Jr.」の広告。お分かりの通り、早見優ちゃんはセーラー服姿だ。1983年って、そんな年なんですよ。
ところが、遂に手放すときが来た。ちょっと勿体無いかもしれないけれど、この名作を、私よりももっと欲しがっている人がきっといるはずだと思ったからだ。昨日、ベイタウン郵便局から、その人のもとへ発送した。
2007/12/19
しばざ記 370 |
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